駒澤大学で保育政策討論会「認定保育士は必要なのか?」を開催~資格制度の必要性や実効性について議論沸騰

 一般社団法人日本保育連盟(代表理事・杉村栄一)の定例勉強会「認定保育士は必要なのか」が6月13日に東京都世田谷区の駒澤大学深沢キャンパスのアカデミアホールで開催されました。連盟の定例勉強会としては初の大学開催となり、この日は、保育事業者、大学教授、現役保育士、保護者、行政担当者といった多様な立場の登壇者が集い、制度創設の必要性や実効性について熱のこもった議論が交わされました。

 シンポジウムに登壇したのは、貞松成(AIAI Child Care株式会社 代表取締役)▽井口智明(株式会社ディアローグ 代表取締役)▽倉盛美穂子(目白大学心理学部教授)▽松本さや(インスタグラマー現役保育士345)▽青山綾里(保護者・世界水泳選手権100mバタフライ銀メダリスト)▽立澤文敏(東京都福祉局保育支援課長)の各氏。

初の大学開催となった連盟の政策勉強会(駒澤大学深沢キャンパスのアカデミアホール)

 シンポジウムでは冒頭、連盟理事でもある貞松氏が「保育の現場には優れた保育士が数多くいるにもかかわらず、その努力や専門性が正当に評価されていない。これは構造的な課題だ」と語り、保育士のキャリアパスや処遇において見える形での評価が欠如していると指摘。「看護分野の認定看護師制度のように専門性や認知度、処遇が一体となって昇進や待遇に反映される仕組みを保育分野でも確立すべき時期にきている」と、認定保育士制度創設に向けた根源的な問いを投げかけました。

 また、この問題意識を受け、同じく連盟理事で保育事業者として年間100以上の保育園を視察している井口氏が「子どもの発達支援、保護者対応、地域連携、さらには外国籍家庭とのコミュニケーションなど、保育の対応領域は年々拡大している」と述べ、「日々のルーティンに追われる現場では課題を客観的に見つめ直し、学びを通じて再構築する時間が不足している。認定保育士制度で専門性を高め保育園の質を高めるのは当然の取り組み」と制度導入の実務的な意義にも言及。この点について、心理学者で目白大学教授の倉盛氏も賛同し、「保育士の実践には、発達心理学や教育学に通じる知見がすでに内包されている。しかしそれを言語化し、他者に伝える力を持つリーダーはまだ少ない。認定保育士はその役割を担える存在だ」と述べ、専門性を理論と実践の双方から補完する意義を示しました。

  制度に対して現場がどのように受け止めているのか──この問いに応えたのが、現役保育士でインフルエンサーとしても知られる松本さや氏。SNSを通じて実施したアンケート結果では「認定保育士制度について知らないという保育士が82%」と紹介し、「認定保育士という言葉だけを聞くと、やはり子育て支援員と同じ立場、保育士資格がなくても現場に入れる資格と勘違いしている方も多い印象」と、まだまだ「認定保育士」そのものの機能や役割を知らない人が多いと分析。そのうえで、「時代とともに保育現場に求められるものが変わってきている。多国籍の子どもがすごく多く、両親は外国語を話すのですが、子どもは日本語しか話せないというケースも増えている。こうした課題にも対応できる保育士の育成も重要」と語りました。

討論会ではそれぞれの立場から熱のこもった議論が交わされた

 また、3児の母であり新聞記者でもある青山綾里氏は、保護者の立場から「保育士の専門性が見える形で認定されることは、保護者にとっても安心感につながる。保育士の力量や信念が明確に伝わる仕組みがあれば、保護者との信頼関係はより深まる」と述べました。また、青山氏は、自らの子どもを保育園に預けていた時期の経験に触れ、「保育士が〝あなたのお子さんはこういうことで困っているようですね〟と丁寧に説明してくれたことで、親としての不安が和らいだ。あのときの対話力や観察眼こそが専門性だと後から気づいた」と述懐。認定保育士制度が単に保育士のためだけでなく、社会全体の育児環境を支える仕組みになることを強調しました。 

 東京都が推進するキャリアアップ研修制度と認定保育士制度との連携の可能性について詳述したのは都福祉局子供支援課長の立澤文敏氏。立澤氏は、「東京都では、保育士のスキル向上と処遇改善を目指してキャリアアップ研修を進めてきた。一定の修了要件と評価制度を設けており、保育士の専門性を段階的に高めていく仕組みが整いつつある」と説明。続けて、「都としても、現場の声を反映しながら新しい制度を育てていく姿勢を持っている。認定保育士制度が単なる肩書きや資格の一つではなく、学びの質を高め、保育の質を保証する仕組みとして成熟していくことを望んでいる」と語るなど、制度が地域の保育環境全体の底上げにつながる可能性に言及しました。

 これに加え、倉盛氏は、「保育士が学び続ける文化を育てるためには、国や自治体による助成制度、柔軟な学びの機会設計が不可欠だ」と指摘。制度の理念を実現するには、社会全体での支援と仕組みづくりが必要だと改めて訴えました。

                 ◆

 制度創設に向けた具体的な第一歩として、連盟では星槎大学と連携し、今年10月から「認定保育士」養成講座を開講します。連盟事務局長の石元悠生氏は、「まずは発達支援に特化したカリキュラムから開始し、現場経験と学術知見を融合させた人材を育てたい」と説明。少人数制・双方向型の授業により、単なる座学にとどまらず、実践と対話を重視する内容が計画されていることを明らかにしました。今後は、保護者支援、マネジメント、地域連携等の専門領域にも展開していく予定だということです。

星槎大学と連携した認定保育士養成カリキュラムの詳細も説明された

一般社団法人 日本保育連盟お知らせ駒澤大学で保育政策討論会「認定保育士は必要なのか?」を開催~資格制度の必要性や実効性について議論沸騰