「認定保育士」の可能性と役割を議論 研究成果を現場の課題解決へ ~日本保育連盟と星槎大学が共催シンポジウム~

 日本保育連盟と星槎大学はこのたび、東京・日本橋で「保育を支え導く認定保育士の可能性を考える」と題したシンポジウムを開催しました。1年間の履修プログラムを修了した第1期生10人の誕生を受け、認定保育士の役割や今後の可能性について議論。保育士個人の経験や力量に依存するのではなく、研究で得られた知見を組織全体で共有し、保育現場の課題解決につなげる新たな専門職の在り方が示されました。

 この日のシンポジウムでは、日本保育連盟の杉村栄一代表理事、星槎大学共生科学部の渋谷聡学部長が挨拶した後、同連盟の貞松成理事が認定保育士制度の誕生に至る経緯を説明しました。

 続くパネルディスカッションには、第1期生の安斎愛生氏(社会福祉法人ひまわり福祉会)、張愛和氏(AIAI Child Care株式会社)、日向美奈子氏(株式会社ハイフライヤーズ)と、履修プログラムの指導に当たった星槎大学大学院教授の坂田映子氏が登壇しました。

子どもの多様性を支える組織づくり

 安斎氏はインクルーシブ保育を支える組織マネジメントについて研究成果を発表。多様な子どもを受け入れる保育を実現するには、保育士個人の専門性を高めるだけでなく、職員同士が互いの考え方を尊重し、安心して意見を交わせる組織づくりが欠かせないと指摘しました。

 特に、職場の心理的安全性について単に職員同士の仲が良い状態ではなく、経験年数や立場にかかわらず、建設的に異なる意見を述べられる関係性が重要だと説明。「私はこういうふうに思うと言えることがすごく大事」と述べ、職員が互いの考えを率直に伝え合うことのできる組織風土の必要性を強調しました。

「職員同士が互いを尊重できる組織づくりを目指す」と語る安斎氏

 また、研究を通じて「保育者自身のインクルージョンが叶えられなければ、子どものインクルージョンは叶えられない」との考えに至ったことを紹介。保育の質の向上を個人の技能向上だけで捉えるのではなく、職員が学び合い、組織全体が成長する仕組みとして考える必要性を訴えました。

 張氏は、特別な配慮が必要な幼児の「片付け場面」に着目した研究を報告。片付けに参加しない子どもに対し、一律に行動を促すのではなく、子どもの姿を捉える「見取り」、行動の背景を考える「意味づけ」、状況に応じた「支援選択」という三つの視点から保育者の判断を検討しました。

張氏は「子どもの背景理解が支援につながる」と話しました

 例えば、遊びで作った作品を残しておきたいのか、自分の手で片付けたいのか、時間の理解が難しいのかによって必要な支援は異なるといい、研究を通じて「どうしたら片付けに参加できるかという支援の方法論だけではなく、その前に子どもの姿や背景を理解する」ことに意識が向くようになったと説明。子どもの行動だけを見るのではなく、その背景を理解し、保育者同士で判断の根拠を共有することが一人ひとりに応じた支援につながると語りました。

保育者128人の調査から見えた課題

 日向氏は、千葉県内の認可保育園に勤務する保育者を対象に実施したアンケート調査の結果を報告しました。有効回答は128人で、保育者が「気になる子ども」への対応で抱える困難や必要とする支援を分析しました。

 調査では必要な支援として「人的配置の充実」が64.8%で最も多く、「同僚との情報共有・相談」が59.0%、「専門機関との連携」が56.2%と続きました。一方、特定の子どもについて専門機関と実際に連携した経験のある保育者は28.57%にとどまり、専門的支援を求める声と実際の連携経験との間に隔たりがあることが浮かび上がりました。

「チームでの専門性の向上が認定保育士の目指す姿」と語る日向氏

 日向氏は、専門機関との連携については日常の保育に継続して生かす仕組みが重要だと指摘。「保育者一人の頑張りからチームの専門性へ。これが認定保育士の目指す姿」と述べ、園内の情報共有に加え、外部の専門機関との連携を促す役割を担っていく考えを示しました。

経験を研究で裏付ける専門性

 3人の研究発表を受け、研究指導を行った坂田氏は従来の保育士向けキャリアアップ研修と認定保育士の履修プログラムとの違いについて説明。通常の研修が専門知識や実践方法の習得を中心とするのに対し、「認定保育士は自ら現場の課題を発見して先行研究や調査を通じて分析を深め、論文としてまとめることに特徴がある」としたうえで、「現場で感じた疑問を研究課題として設定し、科学的な視点から検討することが重要だ」と語りました。

 また、3人の研究について、それぞれ異なる方法で現場の課題を捉え直したことを評価し、研究成果を実際の保育現場でどのように活用するかが今後の課題になると指摘しました。

「研究成果を保育現場でどのように活用するかが今後の課題」と語る坂田氏

 その後行われた討論では、認定保育士が現場でどのような役割を担い、その成果をどう示していくのかとの問いも上がり、「現場で具体的な成果を積み重ね、その必要性が社会に伝わることで認定保育士の専門性への評価の確立につながる」などの意見が共有されました。

認定保育士の社会的評価確立へ

 一連の議論を受けて、杉村代表理事は認定保育士の取り組みをそれぞれの園だけにとどめず、保育業界全体に広げていく重要性を強調。特に、認定保育士の活動によって保育現場がどのように変わったのかを記録するよう呼びかけ、「将来はその記録がものすごく大きな価値を持つようになる」と述べました。続けて、こうした実践の蓄積が「行政への働きかけや制度の発展、履修プログラムの改善にもつながる」との期待を示しました。

 認定保育士制度は、今回誕生した第1期生が出発点となります。研究によって得られた知見を保育現場に還元し、個人の専門性を組織全体の力へと広げていけるか。保育の質の向上と保育士の新たなキャリアパスの形成に向けて、今後の実践と成果が注目されます。

会場には多くの人が訪れ、星槎大学ではシンポジウムをYouTubeでライブ配信しました

 ※認定保育士受講プログラムとは

保育士が保育現場の課題を自ら発見し、専門的な知識と研究成果を生かして解決に導く人材の育成を目指す制度です。日本保育連盟と星槎大学が連携して実施する履修証明プログラムでは障害児保育や発達障害児への援助、心理教育アセスメント、保護者支援、組織マネジメント、論文作成など8科目、計60時間で構成されます。オンデマンド講義とオンラインでの研修、レポート作成を組み合わせ、修了者には学校教育法に基づく履修証明書が交付されます。

一般社団法人 日本保育連盟お知らせ「認定保育士」の可能性と役割を議論 研究成果を現場の課題解決へ ~日本保育連盟と星槎大学が共催シンポジウム~